三浦弘行
「挑戦者になってから、取材は何件くらいありましたか?」
最初になにげなくそう尋ねたことを私は少し後悔した。とたんに三浦八段が、「えーと・・・・・・。待ってください、いま正確な数を思い出しますから」と真剣な顔になって横を向き、何かつぶやきながら指を折りはじめたからだ。
ようやく「20件くらいですね」と答えてくれたものの、すぐにまた、「い、いや挑戦者になる前から決まっていた取材や、2日間に分けてやった取材はどう勘定すればいいのか。ううむ」と悩みだす。だが、さすがに話を変えようと私が口を開きかけたそのとき、膠着状態はみごとな一手で打開された。
「そうだ、2ケタを超える取材、と書いてください。うん、これなら問題ない」
挑戦者三浦弘行、会心の笑みだった。
2ケタの取材、または10を超える取材ではないのだろうか。
A級棋士として、自分のどのようなところをファンに見て欲しいですか?とたずねたとき、三浦は少考後、こう答えた。「そのときにできる最善を尽くそうとする姿勢を見てほしいです」
そして、こう続けた。
「年々、僕は強くなっています。将棋界には、25歳最強説などもありますが、最善を尽くしてきたから僕はいまがいちばん強いと思うし、今後も強くなります」
この部分を読んで、僕はテンプル・グランディンの話を思い出した。