テンプル・グランディン(Temple Grandin)

『火星の人類学者』より抜粋。冒頭の「彼女」はテンプル。テンプルはアスペルガー

彼女は監督教会派信徒として育てられたが、若いころに「正統派の信仰」――人格的な神や神意への信仰――を捨て、神をもっと「科学的」に考えるようになった。「わたしは宇宙には善に向かう究極的な秩序の力があると信じています――ブッダやイエスといった人格的な神ではなくて、無秩序から生まれる秩序といったものです。人格的な来世の存在はないとしても、エネルギーの痕跡が宇宙に残ると考えたいのです・・・・・・たいていのひとは、遺伝子を残しますけど――わたしは、思想や書いたものを残せます」
「わたしがとても不安なのは、こういうことなんです・・・・・・」ハンドルを握りながら、ふいに口ごもったテンプルの目に涙があふれた。「(前略)わたしが死んだらわたしの考えも消えてしまうと思いたくない・・・・・・なにかを成し遂げたい・・・・・・権力や大金には興味はありません。なにかを残したいのです。貢献をしたい――自分の人生に意味があったと納得したい。(後略)」

 アスペルガーの人には、現在は過去より優れていると思う傾向があるのだろうか。そういえば、これと反対に、右翼の人は過去の自国が現在の自国より優れているとよく言う。どちらの説明も僕はできない。


 これは前述したけれど、アスペルガーの人は「『過去・現在・未来を含めた時における、自分の行動の一部』でさえもが、無意味であること」を嫌う。自意識(自分に関する記憶への興味)を持ちながら、一般人と比べると厳密に、物事を捉えると、こうなるのだろうか。